自らが帰るべき場所を破壊し続けていることに気づいていない!!
森林があってこそ地球のメカニズムやサイクルが保たれているが、森林が消失すればするほど自然界のバランスが崩れてしまい天変地異が続発する!!
地球は、限界を超えて今もなお連日のように森林破壊が続いていますので、崩壊はすぐに始まります!!
世界が注目する「森林保全」 という日本文化
有井 太郎 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 森林の保全に向けて、日本だからこそできるSDGsがある。飲食店でのプラスチック製ストロー廃止が相次ぐなど、環境意識は日に日に高まっている。その流れを加速させたひとつが、国連の定めたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)であろう。達成のためには、環境や自然の価値を今一度強く認識することが必要不可欠だ。
前回の記事:「サステナビリティなき東京オリンピックに世界が警鐘」
「自然環境は、非常に危機的な状況となっています。だからこそ、その価値の見直しが必要です。たとえば『森林』の減少は進んでいますが、日本には古くからその森林を守ろうとしてきた文化があります。今こそ、そこに光を当てるべきではないでしょうか」
そう話すのは、環境学や持続可能な社会を研究する國學院大學経済学部の古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)教授。自然の代表格といえる「森」はどのような状況であり、日本はそれをどんな文化で守ってきたのか。古沢氏の話から紐解いていきたい。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 國學院大學経済学部教授の古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)氏。大阪大学理学部(生物学科)卒業、農学博士。NPO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事、NPO日本国際ボランティアセンター(JVS)理事、(一社)市民セクター政策機構理事、國學院大學では2011年より学際的研究プロジェクト「共存学」のプロジェクトリーダーを務める。著書に『みんな幸せってどんな世界』(ほんの木)、『食べるってどんなこと?』(平凡社)、『地球文明ビジョン』(NHKブックス)、共著に『共存学1~4』(弘文堂)などがある。 世界で進む伐採。日本は“森林大国”だが・・・――今回は、森林をテーマに考えていきたいと思います。森林の状況は、やはり危機的なのでしょうか。
古沢広祐氏(以下、敬称略) そうですね。森林の保全は、現代において周知なテーマのひとつですが、しかし状況は深刻化しています。
たとえば、地球温暖化などを問題にするとき、その要因として、人間が排出する二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスがよく挙げられます。これを抑制することは人類の大きな課題ですが、一方で、気候変動の要因として「森林減少」があることも忘れてはいけません。国際機関のデータ(IPCC第5次報告書)では、気候変動の要因の約10%が森林減少など土地利用の変化によるものだと発表されているのです。
森林は、二酸化炭素を吸収して酸素を放出します。地球にとって肺の役割を果たしていることは、多くの人がご存じでしょう。しかし、現代に入っても、違法伐採を含めた過剰な森林の伐採は、世界各地で起こっています。特に20世紀から21世紀にかけて、森林は大幅に減少しました。現在は、熱帯林地域の破壊が問題となっています。
――どのような問題でしょうか。
古沢 熱帯林においては、近年、アブラヤシのパームオイルという食用油の需要が高まっており、その農地開発として森林伐採が進んでいます。また、植物が起源であるバイオ燃料のニーズとしても同じく急伸しており、そのための過剰な伐採が進んでいます。
バイオ燃料は「カーボンニュートラル」といって、燃やす過程でCO2が放出されても、それは原料の植物が成長するまでに吸収したCO2と同量であり、再生産によって地球全体のCO2の量に影響を与えないという考え方が普及しています。そのため、環境への負荷が低いとして推奨されています。
しかし、それを良いことに過剰なペースで植物が伐採されている現状があります。伐採のペースが早すぎるために、森林の吸収分が減っているとの指摘もあります。かえってバランスが崩れている可能性があり、自然にやさしいはずのバイオ燃料を作るために、自然が破壊される矛盾が起きているのです。特に熱帯の森林は生物多様性の宝庫ですから大きな問題です。
――日本における森林保全は、どのような状況なのでしょうか。
古沢 日本は「森林大国」と言えます。国土面積の約7割(66%)が森林であり、世界的にもかなり高い数字になっていますから。また、近年においては森林を伐採する量に対し、森林の成長する量が上回っています。これを「蓄積量」といいますが、日本ではプラスを続けており、CO2の吸収量が伸びているといえます。
ただし、その裏を探ると問題も見えてきます。もともと日本は、江戸時代の頃から過剰な伐採により森林が大きく減少し、明治時代も木炭のために国内の森林が多数使われ、太平洋戦争前後も乱伐してきた経緯がありました。
結果、戦後の頃から日本は東南アジアなどの木材を大量に輸入します。「アジアの森食い虫」と揶揄されることさえありました。つまり、日本は森林を守ってきたという面の一方で、アジアの森林資源を大量に輸入してきた面もあったのです。
森は海も豊かにする。そこに着目したカキの養殖家――森林保全においては、世界も日本も“見直し”が求められているわけですね。
古沢 はい。ただ重要なのは、日本では古くから森を守ろうという思想が文化として根強くあったことです。その代表が「鎮守の森」です。
鎮守の森とは、神社を囲むようにある森林のことで、多くの神社に見られます。一例として、明治神宮は100年前に約70ヘクタールもの森林が作られ、今もその存在感を示しています。また、“御神木”のある神社も多く、森や木そのものを神が宿る場所として敬う意識が醸成されてきたのです。
以前紹介したワラ文化と同様に、森の持つ豊かさや恵みを「アニミズム(すべてのものの中に霊魂が宿っているという考え方)」として根付かせてきたといえるでしょう。
――神社の文化に、森林を守る意識が見てとれると。
古沢 はい。ちなみに、森林の役割として「豊かな海をつくる」という面も忘れてはいけません。実はその面でも、日本では世界から注目された保全の事例があります。
――詳しく教えてください。
古沢 まず、海と山の関係について説明しましょう。海の豊かさを決めるひとつの要素は海水の質ですが、その海水には、山から川を伝って流れ込んだ水が含まれます。そして、その川の水は、山の土壌や森林の恵みを含んでいるのですよね。
この関係性に注目して、ある活動を始めた日本の「カキ養殖家」がいます。畠山重篤(はたけやま・しげあつ)さんという方で、宮城県気仙沼湾でカキの養殖を行ってきました。しかし、徐々に気仙沼湾の環境が悪化したといいます。
そこで始めたのが、気仙沼湾に注ぐ大川の上流にあたる室根山(むろねさん)への植樹活動でした。海の生産力を保つには、森の緑(広葉樹)を保全することが必要になるという考えで、「森は海の恋人」という植樹祭を行っています。
もともと、室根山の神社大祭では、気仙沼の海の海水を竹筒に汲んで新しい塩を山の神社に捧げるという由緒ある伝統行事があり、実は古くから海と山の関係性を重視してきたところなのですね。
――海のためにも、森の保全が求められるわけですね。
古沢 そうですね。ちなみに、国連は2011年の「国際森林年」を記念して、森林保全に貢献したリーダーに与えられる「フォレストヒーローズ賞」を畠山さんに授与しました。世界的に見ても、海の漁師さんが山の森林保全に貢献する営みとして注目されたわけで、森と海のつながり合いがあらためて評価される活動だったと言えます。
東日本大震災の際は、気仙沼湾が大きな打撃を受けて、畠山さんのカキの養殖施設も被害を被ったのですが、その後は復興に尽力し、現在もNPO法人「森は海の恋人」の代表として活動を行っています。
SDGsは海と陸の自然を守ることを目標に掲げていますが、実はそれらがつながっていることを示す事例でもあります。
西洋的な自然保護と異なる、東洋の“共存・共生思考”――森林保全の考え方や活動のヒントが、日本にあるといえそうです。
古沢 その意味でもうひとつ紹介したいのが、日本の「里山・里海」の考え方です。これも近年、環境保全を考える上で世界的なキーワードになりつつあります。
その背景には、西洋と東洋での自然保護に対する考え方の違いがあるでしょう。
――どういうことでしょうか。
古沢 西洋的な自然保護は、人間の生活区域と自然の保護区域をはっきりと分けて、後者をアンタッチャブルな領域にする傾向が強いと言えます。自然保護区域について、聖域を意味する「サンクチュアリ」という言葉が用いられていることからも、その思想が垣間見えるでしょう。
一方、アジアでは、もちろんサンクチュアリのような区域もありますが、自然と人間がお互いに影響し合いながら、バランスをとって調和しているエリアが多数あります。まさにこれが「里山」です。海でも同じように「里海」がありますね。
つまり、自然と人間が対立して別個に存在するのではなく、中間領域をつくって共生・共存している。サンクチュアリのような原生的な自然に対し、人間も活動する中で生まれる二次自然、準自然の領域が非常に多い。実はこのような考え方に注目が集まっているのです。
――なぜ、注目を集めているのでしょうか。
古沢 もちろん人間が完全に立ち入れない保護区域は必要ですが、それだけで自然を保全するには限界があります。地球全体の森林減少という大きな問題への対策を考えたとき、今すぐすべての森林を立入禁止のサンクチュアリにするわけにはいきません。
そして何より、人間と自然との共存・共生とは、森と人との調和的つき合い方を見直すことが必要だということです。里地、里山、奥山としての利用区分けや、他の生き物たちとの関係性を安定的に維持する仕組み、それは森林保全の大きな目的である「生物多様性」の保護においても極めて重要になってくる考え方です。
実は、里山という言葉が世界に注目されたのも、COP10(生物多様性条約第10回締約国会議、2010年、名古屋)がきっかけでした。日本はこのとき、世界が今後とるべき重要なアプローチとして、「SATOYAMAイニシアティブ」というキーワードを発信したのです。
――生物多様性との関係とはどのようなものでしょうか。
古沢 つまり、昔ながらの田んぼと周囲の自然との関係性において、多様な生物種が養われる実態があります。人間の自然への介入の仕方によっては、そこに独特の生物多様性の維持が可能となるということです。何より、人間が自然と共存・共生するのは、お互いの価値を認め、受け入れながら生活することにつながります。
さらに注目すべきは、里地・里山・里海の生物多様性を守ることが、実は多様な食文化を育み、そこに自然の恵みを敬う伝統行事を生み出すといったように、“文化”の多様性を育成することにもつながることです。
これらを踏まえると、里地・里山・里海で見られる共存・共生の考え方は、SDGsの大きなテーマとされている人間の多様性の尊重、共存にもつながるかもしれません。日本の地で培ってきた営みや文化的蓄積は、そこまでの可能性を秘めているといえます。
――SDGsのさまざまな目標につながってくるということでしょうか。
古沢 はい。SDGsで大切なのは、経済・社会・環境にわたる17の目標を、相互に関係性を見いだして高め合いながら達成していくことです。そして里山に秘められている思想を発展的に見ていくと、実は自然や社会や文化のさまざまな問題がつながりを持っていることが分かります。それを理解すると、17の目標も連動して捉えられるのではないでしょうか。
だからこそ、里山・里海の考えや日本が培ってきた文化を、あらためて見直す必要があります。次回、この話の続きから、日本がすべきSDGsでの役割を展望したいと思います。
以上
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