福島の真実は、一つしかない! 放射能は、人類の存続を脅かすほどの量が、連日、天空に噴出している! 少なくとも、同じ国の同じ民族が苦しんでいるのを静観していてはならない! 「風評被害」と言うのであれば、立ち入り禁止区域が何故あるのか! 関東圏の若者が、突然死しているのはなぜなのか! 冬場に、老人たちが心筋梗塞や、脳梗塞で連日死亡しているのはなぜなのか! 多くの訴訟が起こされているが何故なのか! 福島の真実 ──『美味しんぼ』作者・雁屋哲氏に聞く
世界有数のウラン輸出国として原発産業を支えつつ、自国内には原子力発電所を持たない国オーストラリア。被ばく国であるにもかかわらず、狭い国土に世界第3位の原発数を誇る原発大国・日本。原発を巡る両国のねじれた構造を、オーストラリアに根を張る日系媒体が取り上げないのはそれこそいびつだ。ルポ・シリーズ「原発問題を考える」では、原発を取り巻くさまざまな状況を記者の視点からまとめていく。
取材・文・写真=馬場一哉(編集部)
「今後、日本の食は極めて厳しい状況に置かれるのではないでしょうか」
12月18日、東京電力は福島第1原発5、6号機を廃炉にすることを発表。事故後、廃炉が決定していた1〜4号機と合わせて、福島第1原発はすべて廃炉となることが決定した。「事故の収束に集中するために、冷温停止中の5、6号機も廃炉にしてほしい」との安倍晋三首相の要請を受け入れた形となる。2020年の開催が決定した東京五輪の招致に関連し「汚染水は完全にコントロールされている」と世界に向けて公言した安倍首相が、具体的な形として対策に向けての真摯な姿勢を表にアピールするという側面も当然あるだろう。だがはっきりした形での決定が下されたことに被災者はじめ、ほっと胸をなでおろした人もきっと多いことだろう。
東京電力はこれに伴い20日、廃炉事業を原子力部門の中から社内分社化することを決定。再稼動を目指す新潟県柏崎刈羽原発の事業と切り離されることから、原子力部門内での廃炉事業に関する責任の所在はより明確になった。廃炉に向けての責任を負い一丸となり取り組む組織ができた一方で、廃炉という宿題を切り離すことのできた本体は再稼動に向けてむしろ身軽になったとも言えるだろう。なお、分社化された組織の名前は仮称だが「廃炉カンパニー」と名付けられている(この妙にイージーで人懐こいネーミングにも何か釈然としないものを感じるが、さすがにそれはただの記者のいいがかりかもしれない)。
さて、そのような状況下において「いかにも好転しているように見える」状況を作り出す政府をはじめ、体制側の姿勢にどうもすっきりしないものを感じるという意見を前回書かせていただいたが、記者のような曖昧な姿勢ではなく、真っ向からそれを否定する人物にお話を伺う機会を得た。人気長寿漫画『美味しんぼ』の作者・雁屋哲氏である。
氏は自身のブログ「雁屋哲の今日もまた」でさまざまなテーマのブログを徒然と書かれているが、時に辛らつなまでに日本政府の汚染水対策などを非難することがある。そんな中、13年1月からしばらく休載していた『美味しんぼ』を再開。その内容は主人公らが被災地を訪れるというストーリーを軸に福島の真実を探るというものであった。11月某日、ありがたいことに、通常、インタビューなどはほとんど断っているという雁屋氏の自宅でインタビューを収録することができた。今回から2回に渡ってその内容をお伝えしていこう。
なお、当連載で掲載するインタビューに関しては、決して耳あたりの良い言葉のみを選ぶといういわゆる掲載内容の選別(編集者がよく陥りがちなバイアスのかかった編集作業)はあまりしていない。ゆえに過激な意見もまた出てしまうが、ダイレクトに反応せず、まず一意見として消化し、その後自らの頭でさまざまな事態をとらえるための材料としていただければ幸いだ。
想像を上回る被害
ーー雁屋さんは、3.11の東日本大震災の時はシドニーにおられたんですよね。
雁屋「その日の夜、レストランでご飯を食べていた時にオーストラリア人の友達から泣きながら電話がかかってきて初めて知りました。日中は大地震が起こったことを知らずに過ごしていましたね。電話を受け、家に帰ってテレビを見て初めて、どうやらとんでもないことが起こったのだということを実感として感じました」
ーー福島の原発事故についてはすぐに情報をキャッチできましたか。
雁屋「契約しているNHKのテレビやインターネット、友人からの情報などで知ることができました。4月には日本に帰りましたが混乱の真っ最中で、震災から2カ月半経ってやっと被災地に取材に行くことができました。昔『美味しんぼ』で取材に行った人たちはどうしているのだろう、どういう生活をしているのだろうと心配で、まずは宮城県と青森県に行きました。その後、11年の11月から13年の5月まで本格的に各地を取材して回りましたね。多くのジャーナリストが関連記事を書く中、僕はあくまでも二番手ですから実際に福島県に行って、自分の目で見て体験しなければという思いでした」
ーー真実を伝えなければという使命感を強くお持ちだった。
雁屋「もちろんそうです。オーストラリアのニュースはすごく煽りますからね。今にも日本が潰れそうな勢いで水素爆発を核爆発と言ったりする。それならば自分で行って見て聞くしかないという思いで現場に行ってみると、今度は日本政府が言ってることも信用できないという状況でした。原発の敷地内にも入りましたが、すさまじい破壊でした。ただ応急措置しているだけで、根本的には何も解決してないと感じました」
ーー実際に行かれてみると被害は想像をはるかに上回ったと。
雁屋「ぜんぜん違いましたね。中でも一番は、やはり放射能の被害です。目に見えないですし、ただちに被害は出ない。でも見えないというのがとんでもなく怖い。これは私自身の体験ですが、取材から帰って夕食を食べている時に、突然鼻血が出て止まらなくなったんです。なんだこれは、と。今までの人生で鼻血なんて出すことはほとんどなかったので驚きました。その後も夜になると鼻血が出るということが何日か続きました。ですが、病院に行っても『鼻血と放射線は今の医学では結びつけることはできない』と言われ、鼻の粘膜の毛細血管をレーザーで切ることになりました。また、取材後にすごく疲労感を感じるようになった。取材に同行したスタッフも双葉町の村長も、鼻血と倦怠感に悩まされていましたよ。低線量だから被害はないと言いますが本当でしょうかね。子どもたちは学校でも塾でも、ぼーっとして何もできない、スポーツもしたくない、動きたくないと言っていました。残酷な言い方になるけど、あの周辺は人は住んではいけない所になってしまった。でも、僕たちが住んでいる人に出ろとは言えない。『福島の食べ物を食べて応援しよう』というキャンペーンもありますが、これもどうかと思います。仮に市場に出回る食品自体は大丈夫だとしても、土の汚染はすごいですから。農作業中は、土が肌に触れたり、器官から吸い込んでしまったりもします。そういう意味では農作業に携わる人の被ばく量はものすごいものになります。ただ、11年に各地で高い線量が検出されたり、翌年には米の作付が禁止されたりしましたが、僕は福島で一番問題なのは漁業だと思いますね。これから先、何十年経っても漁業復活は無理なのではないかと思います」
ーー東北地方の海産物の多くを今後食べられなくなる可能性も。
雁屋「恐らく食べられなくなるでしょうね。どうしようもない、とんでもない被害ですよ。山の幸も川の魚も…」
ーー日本の食は今後どうなっていくのでしょうか。
雁屋「福島の原発の影響はものすごく大きいし、TPPで海外から安いものが入ってくることを考えると将来的には極めて厳しい状況です」
ーーそんな中、和食が世界無形文化遺産になりました。
雁屋「そうですね。いい宣伝にはなるかもしれないけど、本質的には何も変わらないですからね。何の意味があるのかと思わず考えてしまいますよ…」
歴史は、悪者を必ず極刑にする!