日本銀行(以下、日銀)は、2009年9月末の個人金融資産残高が1,439兆円と発表した。国民1人あたりに換算すると約1,130万円、4人家族の世帯でざっと4,500万円もの資産を持っているという計算だ!
「そんなにあるの?」というのが、多くの人の実感だろう。実は、この額の中には、企業年金や自営業を営む人の事業資金など実感の薄い資産が含まれている。
しかし、もっと大きな理由は一部の人が巨額の資産を保有していることだろう。日銀の数字はあくまでマクロの統計なのでそのあたりは分からないが、その実態を示すデータもある。
金融広報中央委員会では、「家計の金融行動に関する世論調査」を実施し公表している。この調査では、一部の富裕層によって引上げられている平均値のほかに、金融資産保有額を順に並べたときにちょうど真ん中にくる「中央値」というものを公表している。実感により近い数字である中央値は、1世帯あたり500万円。調査した家族の1世帯の平均人数は3.3人だったので、1人あたりで換算すると約150万円となる。
リアルな数値…というか、意外に少ないと感じられるかもしれない。それもそのはず、この調査全体の平均値は、1世帯あたり約1,124万円(1人あたり約340万円)。現実の世帯数を掛け合わせても、1,000兆円に遠く及ばない。自分の財布のことなので、少な目に回答しようという心理が働くのだろう。
さらに、この調査では年代や職業、年収といったカテゴリー別の結果も公表している。例えば年代別で見ると、60歳以上の世帯(回答者の43%)が金融資産保有額のおよそ6割を保有。一方、40歳未満の世帯(回答者の16%)はたった6%に過ぎなかった。高年齢者層が資産の多くを持っているという実態がわかる。
日本の家計は預金好き1990年代まで、日本の個人金融資産残高は高い貯蓄率や利息により、着実に増加してきた。しかし、高齢化の進行に伴う貯蓄率低下や超低金利の定着などによって、21世紀に入ってからは伸びが大きく鈍化、ここ数年は1,400-1,500兆円台で推移している。
国の多額の借金(公的債務残高。その大半が国債)を支えているのが個人金融資産であるることは、前号のコラムでも紹介した通り。国の借金はここ数年急増しているにも拘わらず、これを支える個人金融資産は頭打ちの状態が続いている。
今後、国債の消化を個人金融資産に依存できるかは不透明だ。これをどう解決するか、政府の対応に目が離せないところでもある。
さて、ここで、保有資産の内訳に着目してみよう(以下のグラフ参照)。
「資金循環の日米比較:2009年3Q」日本銀行調査統計局より
米国と比べると、「現金・預金」の割合が圧倒的に多いのが日本の特徴である。米国では10%台、欧州主要国でも30%前後に過ぎない。日本の家計は、預金(貯金)が大好きなのだ。
一方、「株式・出資金」「投資信託」「債券」を合わせた有価証券の割合は、日本では10%台に過ぎないのに対し、米国ではもっとも高い割合(53%)を占めている。
このことから、日本政府は、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、証券投資優遇税制など政策的な後押しも行ってきた。しかし、現実にはそうしたシフトは進んでいない。むしろ、「現金・預金」の比率は近年漸増傾向にある。
「現金・預金」の特徴は安全性が高いことだ。金融危機の影響で安全志向が高まったのだろう。ただ、一方で現在の低金利下で少しでも資産を増やそうと、積極的にリスクを取った投資で高いリターンを狙う人もいる。何十年という期間で考えると、「資産をどのように運用するか」によって最終的な残高が大きく違ってくる。あなたはどうする?