東京電力は、この排水路の放射性物質の濃度が雨のたびに、ほかよりも上がっていることを去年4月以降把握していましたが、流出を防ぐ十分な対策を取らず、公表もしていませんでした。
この問題が、いわき市で開かれている地元の漁協の組合長会議で取り上げられ、冒頭、東京電力福島復興本社の新妻常正副代表が「漁業者の皆さまに迷惑をおかけして申しわけありません」と陳謝しました。 そして、東京電力の担当者が「これまで海に流れ出る場所の排水路の除染などを行っていて今回、調査結果がまとまったので公表した。排水口の水の濃度は屋上で見つかったものよりも低く、これまでのところ、周辺の海水の放射性物質の濃度に大きな変動は見られていない」などと説明しました。
これに対して組合長側からは「東京電力を信頼して汚染水問題の解決のために努力してきた漁業者を裏切った。もう信用できない」とか、「こうした隠し事が相次ぐことが風評被害を生んでいる」といった意見が相次ぎ、東京電力の対応に批判が集まりました。東京電力は調査結果を踏まえて、汚染水対策を速やかに進めていくとしています。 福島県漁連「東電との信頼関係崩れた」 福島県漁連の野崎哲会長は「海への汚染水の流出は、われわれ漁業者にとって非常に重要な問題であり、知らされていなかったことで、これまで廃炉のためにと協力してきた、われわれと東京電力との信頼関係が崩れたと思う。
建屋の周辺からくみ上げた地下水を浄化して海に流す計画は信頼関係があって初めて実施できることであり、今回の問題で不信感を抱いたままでは見通しは立たない。
国や東京電力には、しっかりとした対応を求めていきたい」と話していました。 東電「情報を隠したということでない」 会議への出席を終えて東京電力福島復興本社の新妻常正副代表は、「きちんと事実を確認して速やかに原因を究明したうえでの報告であり、対応は適切だったと思っている。
情報を隠したということでは決してない」と述べました。
一方で、「今回の排水路から海に直接流出していることへの私自身の認識が甘かった。
これまで説明してこなかったことで関係する方々に心配や迷惑をかけてしまったことに対しては深くおわび申し上げたい」と陳謝したうえで、排水路が原発の港湾内にたどり着くようルートを変えるなどの対応を取ることも検討していくとしています。 原発汚染水放出…専門家は警告「このままでは危険」
東京電力は5日、福島第1原発事故で低濃度の汚染水を海に放出する作業を続け4200トン以上を流した。2号機取水口付近で採取した海水からは法令濃度の750万倍の放射性ヨウ素を検出。北茨城市近海で採取したコウナゴ(イカナゴの稚魚)から暫定基準値を上回る放射性物質が検出された。海は、魚は大丈夫なのか。専門家も「このままでは危険」と警告している。
経済産業省原子力安全・保安院によると、1~3号機のタービン建屋などにたまっている高濃度の放射性物質を含む水は推定計約6万トン。東電はこれらの水の保管先を確保するため、敷地内の「集中環境施設」や5、6号機の建屋周辺の井戸にたまった汚染水を放出する作業を続行。総計約1万1500トンを放出する計画で、5日午後の推定で集中環境施設から4200トン以上、井戸から約30トンを流した。
東電は、海に流すのは「低レベル」の汚染水で魚などを食べ続けても人体への影響は小さいとしているが、含まれる放射性物質の濃度は最大で濃度限度の500倍。一方、2号機取水口付近で2日に採取した海水からは法令の濃度限度の750万倍に上る1立方センチ当たり30万ベクレルの放射性ヨウ素131を検出した。
ヨウ素の濃度限度は1リットル当たり40ベクレル。水道水の場合、国が定める摂取制限の暫定基準値は同300ベクレル。2日採取分から検出されたヨウ素を1リットル当たりに換算すると3億ベクレルとなり、数値の高さが歴然。京都大原子炉実験所の高橋千太郎教授(放射能影響科学)は「今までよりもかなり高濃度。高濃度汚染水の流出をすみやかに止めなければならない」と指摘した。
また、茨城県の漁協は北茨城市の近海で4日に採取したコウナゴから、暫定基準値の1キロ当たり500ベクレルを上回る526ベクレルの放射性セシウムが検出されたと明らかにした。魚介類が基準値を超えたのは初めて。
高橋氏は「魚は一定の場所にとどまっているわけではなく海流などにもよるが、小さな魚に影響が出ているので、汚染は大きな魚に広がっていくだろう」と説明。東京海洋大の水口憲哉名誉教授は「放射性セシウムは半減期が30年と長い。水産庁は魚の体内からは50日で半分が排出され蓄積しないとするが、自然界ではどうなるか分からない。
食物連鎖で濃度が高まる可能性は否定できない」とし「人体への影響は現状では判断できない」と話した。
水産庁によると放射性物質は海中で希釈、拡散され濃度が非常に薄くなり、最終的には海底に沈殿していく。漁場への影響に関し、水産総合研究センターの中田薫氏は「福島県沖には岩手県から千葉県銚子沖へと南に向かう津軽暖流が流れており、福島第1原発より北には放射性物質が流れる可能性は低い」と説明。水産庁は「安全性に問題のある魚は出回っていない」としている。
≪薬剤投入で“水漏れ”減少か?≫約6万トンの汚染水について、東電は極めて高濃度の2号機の汚染水を2号機の復水器に約3000トン入れるほか、約3万トンを集中環境施設に移す。残りは静岡市から提供された人工の浮島「メガフロート」や仮設のタンクに収容する方針。東電は2号機取水口そばにある作業用の穴(ピット)の下などに石を敷き詰めた「砕石層」に汚染水が入り込み、亀裂から漏れていることを確認。流出を防ぐために石の隙間を埋めるため「水ガラス」という薬剤と、硬さを調整する別の薬を混ぜて注入した。「流量は減少したように見えた」として、さらに監視を続ける。また、政府が実行方針を固めた原子炉建屋の特殊シートによる遮蔽(しゃへい)は、着工が早くても6月以降、完成は最短でも9月となる見通し。事故対処の長期化は必至だ。
【福島第1原発の現状】 汚染水対策は事実上破綻 海洋流出防げるか不透明
福島第1原発からの汚染水の海洋流出を受け、東京電力は護岸の地盤改良など流出防止策を急ぐが、対策の効果は不透明だ。加えて敷地内の汚染水は1日400トンのペースで増え続け、抜本的な解決策もない。廃炉に向け当面の最重要課題とされた汚染水対策は事実上、破綻している。
「1リットル当たり23億5千万ベクレル」。原子力規制委員会が汚染水の漏えい源と疑う敷地海側のトレンチ(地下道)にたまっていた水の放射性セシウム濃度だ。東電が27日、発表した。トレンチが通る2号機タービン建屋東側の一帯では5月以降、観測用井戸で高濃度汚染水の検出が相次いでいる。
東電は4月、港湾内で長さ約780メートルにわたって鋼管約600本を壁のように打ち込む「海側遮水壁」の工事を始めた。完成は来年9月ごろで、汚染水が海に漏れ出さないよう“念のため”の措置だった。
ところがわずか約2カ月後、敷地海側や港湾内の海水で高濃度汚染水の検出が相次ぐと、水ガラスという薬液で護岸などの地層を固める「土の壁」の工事に着手せざるを得なくなった。
トレンチには事故直後に流れ込んだ極めて高濃度の汚染水がたまっている。2011年4月に2号機取水口近くで汚染水漏れがあったことを受け、継ぎ目部分の縦穴を埋めて水の流れを遮断しているが、本来は配管や電源ケーブルを通すためのトレンチに、防水処理は施されていない。
東電は早期に汚染水を抜き取ってトレンチを埋める計画だが、ここが汚染源だとすれば、完了までは高濃度の汚染水が漏れ続ける。今月26日に記者会見した 広瀬直己 (ひろせ・なおみ) 社長は「もっと早くやるべきだった」と悔やんだ。
一方、汚染水をどう減らすのかも重要な課題だ。建屋に流れ込む前の地下水を井戸でくみ上げて海に出す「地下水バイパス」計画は地元の強い反発でめどが立たない。
1~4号機の周囲の地盤を凍らせて地下水流入を防ぐ「凍土遮水壁」は15年の完成を目指すが、世界的に例のない取り組みで効果は未知数だ。「まずは流入量を減らさないとだめだが、抜本策は挙げられない」と広瀬社長は苦悩をにじませている。
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